ホビット 決戦のゆくえ-映画レビュー-


>さよなら、ホビット。
Nicolです。

劇場で「ホビット 決戦のゆくえ」を見てきたので感想を少し。
私ごとではありますが、
今は昔、自分は小学生の頃に原作である
「ホビットの冒険」の上下巻を読みました。
それから長い年月を経て、
あの物語が実写化され、結末を迎えるのを見るのは、
生まれてもいない息子が成人式を迎えるような感覚でした。
(皆さんご存知ですが、私はまだ独身です)

さて、そんなホビットですが、この話はどんな話?
という方の為にかいつまんで話しますと、
原作はJ・R・R・トールキンという方が書いた
「ホビット ゆきてかえりし物語」です。
トールキンが子供たちに聞かせるために作った、
叙述詩のような神話のような、壮大な物語が、
CGと名優達の演技によってスクリーンで描かれています。
同じく彼原作の「指輪物語」も同じ監督で映画化されています。
あらすじとしましては、
ある日、魔法使いガンダルフの訪問を受けた
小さなホビット族であるビルボ・バギンズが、
竜によって故郷を奪われた13人のドワーフ達と共に、
その故郷であるはなれ山を目指して冒険する話です。


☆見所

まずシリーズを通して描かれる壮大な風景。
全編を通してフィンランドの自然と、
人が描いた(!)背景、そしてCG処理により、
この世に存在はしないけれども、雄大な自然を見ることができます。

次に物語と台詞。
ホビットの冒険シリーズには、
見る人の心を打つ言葉が少なからずあります。
そのほとんどは主人公である
ビルボ・バギンズ君その人の台詞です。
彼は小さく、弱く、臆病ですが、
時として考えられないほど大胆で、
そして厳しい決断をいくつも迫られます。
冒険に出た当初は
「ハンカチが無い!」だの
「早く家に帰って暖かい毛布で眠りたい」
だのとぬかしていた人物が、
厳しい困難に直面したり、
悲しい境遇に置かれたドワーフ達との交友を通じて、
次第に成長していく姿が、
見る人の共感を呼ぶからではないでしょうか。

そして前後作品との繋がり。
ホビットの冒険を見る人は、
ほとんどが指輪物語も見ていると思いますが、
その指輪物語との繋がりが今作では多く描かれます。
森のエルフ王子たるレゴラスが、
なぜ人の王になるべき人物のアラゴルンを知っていたのか。
ビルボはなぜ、ホビット不信になり偏屈化したのか。
白の賢者サルマンと冥王サウロンの繋がりはどこだったのか。
指輪物語初見時に沸き起こった疑問を一手に引き受け、
鑑賞後にほとんど違和感が残らない作品となっていました。


☆人物と役者について

前後との繋がりを意識して、というのもありますが、
今回も各キャラクターが際立っております。
私がいつも圧倒されるのは、
エルフの女王、光の淑女ことガラドリエル。
彼女は永遠の命を持つ存在ながら、
全作品で際立った存在感を示します。
演じたケイト・ブランシェットの顔立ちからか、
美しさと怖さが同居しているガラドリエルは、
時に優しく、そして時に恐ろしい側面を劇中で顕わにします。
今作では復活間際のサウロンを撃退し、
9人の幽鬼すら封殺する力を発揮します。

そしてガンダルフを演じきったイアン・マッケラン。
彼は近年のX-MENシリーズでマグニートーを演じているので、
世界的に有名なSFおじいちゃんになりました。
その深い皺に刻まれた疲労感だけでも、
物語の過酷さが伝わってくるようで、
本当に長い間お疲れ様でした、と言いたくなりました。
同じく白の賢者であったサルマンを演じた、
クリストファー・リーも、
スターウォーズサーガでドゥークー伯爵を演じてますね。
この作品はかっこいい長身のおじいちゃんが出てくるので、
ファンにはたまらないと思います。たぶん。
今作の時点ではサルマンはまだ善玉で、
マトリックスで「エージェント・スミス」を演じた
ヒューゴ・ウィーヴィング扮するエルロンド卿や
前述のガラドリエル様と一緒に「中つ国の守護者」として、
死霊術士(サウロン)と戦います。
「サウロンは私に任せよ」なんて去り際に言っちゃうわけですが、
これがどんな結果を招くかは指輪物語を見た方はご存知ですね。

そしてビルボ・バギンズを演じたマーティン・フリーマン。
困った表情しか出来ないあのイライジャウッドとは雲泥の差
まさしく主人公でした。
不安に迷う表情や、
竜の残した遺産に心奪われたトーリンを恐れる様子、
人とエルフとドワーフの架け橋になるべく、走り回るときの必死さ。
どれをとっても素晴らしい役者であり、
細かい演技が出来る彼だからこそビルボ・バギンズという人物が、
見る人にわかりやすく伝わったのだと感じました。

トーリン・オーケンシールド(演:リチャード=アーミティジ)は、
今作でまさに贖罪するキャラクターです。
はなれ山につくまではあんなにも頼もしかったのに、
宝を手にした途端、祖父と同じ業突く張りに変貌してしまいました。
彼に元通りになってほしいと願うビルボの行動に、
激昂すらして絶縁宣言もしてしまいますが、
今わの際にビルボとの仲を取り戻します。
原作では、エルフと湖の町の人に
「あなたこそまことの山の下の王だ。」
と評されるに至るのですが、
今作はある変更点の為に死に様が違いましたね。
なお、リチャードさんは出演する作品での
方向性が似通っている気がします。
以前見た「SPOOKS」という英ドラマでも、
最初は謎めいた善玉として出てきたけれど、最後は、という役柄でした。



☆全体の流れ

原作に沿った映像を作ってきたピーター監督でしたが、
ホビットの冒険には、当初から映画オリジナルの要素が含まれていました。
それは前後2部作ではなく、指輪と同じ3部作にしたこと。
これにより、物語の厚みを増すために人物が増えてしまいました。
結果、本編の映像は大体が原作に忠実ですが、
人物の結末やそこに至る過程が追加人物によりかき乱されています。
その要素がエルフの女性、タウリエルです。
森のエルフ王の部下だった彼女は、エルフ階級では下の方に位置していましたが、
ドワーフ一行が闇の森で捕らえられた際、
比較的若いドワーフだったキーリと惹かれ合います。
その結果はああなってしまったわけですが、
これは原作に沿った流れなので余計な人物だった彼女も、
後の指輪に出てこない布石として綺麗に収まりがついたように感じます。
なお、原作では、
城門から飛び出したドワーフ13名のうち、
キーリとフィーリはトーリンを守る為に左右で討ち死に、
トーリンは幕屋で息を引き取る直前に、ビルボに詫びる、
というシーンが描かれていますが、
映画ではここが
不浄の王アゾグとトーリンの因縁、
キーリとタウリエルの別離、
レゴラスのイケメン!シーンの作成、
の諸事情で違った結末を迎えました。



☆ツッコミ

1:スマウグ退治

というわけで全面的にはホビット大好きなんですが、
ツッコむべきところはツッコミたいと思います。
まず冒頭。
ドワーフに追い立てられてブチキレちゃった竜のスマウグさんは、
(演じるのはベネディクト・カンバーバッジ)
彼らを遣わしたと思われる湖の町の人々を焼き尽くしに飛んできます。
そこで町の漁師であり英雄の末裔であるバルドは、
一人襲い来る竜に反撃するのですが、
いくつも疑問が浮かんできます。
まず、なんで一人?
原作では「町中にも勇気を持って竜に立ち向かう人々」というのが描かれていて、
少なくともバルド一人ぼっちじゃありませんでした。
そもそも見張り櫓からたった一人だけ弓矢を撃っていたら、
竜に狙ってくれ、と言ってるようなもんです。
その攻撃に対して反応したスマウグさんも
「お前を知っているぞ」なんて妙なことを言います。
竜の観察力の鋭さを示すのはわかりますが、
バルドの英雄性を上げるために言ったような感じがして、
はっきり言って陳腐でした。
複数名の人間達が反撃する中で、バルドが仕留めた、
というシーンにした方がしっくり来ますね。
もちろん理由は彼が英雄の末裔であり、
以前竜に傷をつけた黒い矢の継ぎ手だったから、
ということで収まりますし。


2:レゴラス

オーランド・ブルーム扮する森のエルフ王子、レゴラス。
彼は指輪物語随一のイケメンですが、
今回は主軸の人物ではないので端役、
だと思ったら大間違いでした。
ラストハイライトのオーク達との戦いでは、
敵ボスの一人を引き受けてトーリンとクロスオーバーしながら、
華麗なアクションを披露します。
戦いの後、彼は父親に反発してエルフを抜けようとするのですが、
父親から「母はお前を愛していた」だの
「アラソルンの息子に会いに行け」だの、
指輪物語に必要な人物としての要素をつけられて旅立ちます。
傲慢で凝り固まったエルフ王から、
なぜ柔軟でドワーフと友達になれるエルフが生まれたのか、
という部分がおかげで物語2作品を通して見る事が出来ますが、
逆に彼がどうやってエルフに復帰して
指輪をどうするかの会議に出席できたのかが気になりましたね。
こんだけ毎回アクションシーンが華麗なのだから、
いっそのことレゴラスだけでスピンオフするのはどうでしょうか。←



3:ゴブリンズ

作中では不浄の王であるオークのアゾグに率いられていますが、
そもそも彼らがドワーフ、エルフ、人を襲った最大の理由は、
はなれ山の財宝を目指していたトーリン一行を
ゴブリン王が捕らえたため。
その際トーリンに返り討ちにされた王の敵討ちと、
竜亡き後の山の財宝を横取りする為でした。
なのに、いくら冥王サウロンの手先とはいえ、
アゾグごときの指揮を聞いて陣形を整えるなんてこと出来るんでしょうか?
下手なエルフよりもまともな隊列で地中から蟻のごとく
大発生する様を見て?マークが出ました。
あれ、ゴブリンって、もっと適当な種族だったよね、と。


4:やっぱり帰りは一瞬

原作でもそうでしたが、「かえりし」のパートはすんごく端折られています。
ガンダルフが指輪の存在と、
その扱いについてビルボに示唆するだけ。
熊人間ビヨルンがまた見れると思っていた私は拍子抜けでした。
まぁ、私達が実際に旅に出てもそんなもんですね。
空港や現地で盗難にあわない限り、
往々にして帰りは行きよりもつまらないものです。
でもせっかく3部作の最後であり、
指輪物語から続いてきたトールキンワールドの終わりなのだから、
もう少し何かこう、
帰りの風景をエンドロールにするみたいな取り組みがあっても
よかったのではと思いました。


☆そんなわけで

まだ1度しか見ていないのですが、
次見る時はもうちょっとゆとりのある時に見ようと思います。
そしたらレビューも書き直したいかな。
今だって現実逃避にこの記事を書いてますからね。
やばいね。

発売日FNMに出れないのでは。
それじゃ、また次回。

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